イケメン双子と、もちろん『腐』の付く愛され女子と。
act.1 東奔西走! 碧羽と双子と怒涛のはじまり

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 しんしんと雪が降り積もる、白き情景が美しい、ここ翡翠ヶ丘の町並み。

 寺院の梵鐘(ぼんしょう)が重々しく鳴り響き、百八回撞(つ)かれる除夜の鐘も、残すところ後ひと撞きとなった。

 いつもは早々と眠りに就く近所のご老体も、この日ばかりは重い目につっかえ棒をして、杖を片手に近くの神社へと練り歩いてゆく。

 一年間の吉凶を占う行事として、まずは奉恩感謝の意でもある、初詣が挙げられる。

 翡翠ヶ丘の町には、五穀豊穣、商売繁盛、更には屋敷まで守るというお得すぎる利益を司る神として、霊験灼然(れいけんやちこ)な稲荷神が祀られている。

 その名も『緑翠稲荷大明神(りょくすいいなりだいみょうじん)』。

 翡翠ヶ丘に住まう者たちは、この稲荷神へと足繁く訪れては、平素より積んだ業(ごう)や煩悩を落とし清めているとかいないとか。

 とはいえ根底から信仰と御利益を、ことごとくはき違えた翡翠ヶ丘の者たちを、咎めることもなく今年も温かく見守り受け入れるのであった。

 そしてここにもひとり、煩悩と業にまみれた腹黒悪魔が、稲荷神への参道を浮き立つ足取りで練り歩いていた。
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