レストラン化物堂 ~人と化物の間、取り持ちます~
 混乱する桜子先輩から聞きだしたところ、あの時、化田さんとの間にはこんな会話があったそうです。

「アイスココア一杯で500円です」

「はい、どうぞお」

「ちょうどお預かりします。ご来店ありがとうございまし――」

「いつもありがとねえ、桜子ちゃん。桜子ちゃんに接客してもらって、僕、いつも嬉しいなって思ってるんだよお」

「な、何を言うておるのじゃ! こっちは仕事だからやっておるだけじゃぞ! 早く帰らんか!」

「そうそう。桜子ちゃん、あのねえ」

「ええい、話を聞かんか!」

「今度、一緒に来てほしいところがあるんだあ」

「…………へ?」

「んー?」

「き、来てほしいところって、それは……わしら二人でか?」

「うん。二人で」

「ほ、他の奴を誘うがよかろう! こう見えてわしは忙しいのじゃ!」

「ううん、桜子ちゃんじゃないとダメなんだあ」

「なっ……!」

「桜子ちゃん、一緒に来てくれる……?」

「う、うぐぐぐぐ……」

 ――とまあ、こんな次第だったそうで。

「それはデートですね」

「デートだ」

「…………」

 椿屋先輩も同意し、店長もこくりと頷きます。ここは閉店後の休憩室。お店の従業員は勢揃いなのです。

 パイプいすに座った桜子先輩は顔色を赤くしたり青くしたりした後、勢いよく机に頭を打ちつけました。ごんっと鈍い音が響きます。

「あー! デ、デートって何すればいいんじゃろう、デートのための服なんて持っておらんぞ! いや、わしは全然あんな奴のこと気にしてなどおらんのじゃけどな!」

「落ち着いて下さい、桜子先輩! 今から準備すればきっと間に合うはずです! デートの日はいつなんです?」

「明日じゃ」

「明日ぁ!?」

「もうだめだ」

 椿屋先輩の非情な一言に桜子先輩は撃沈します。脱力してぴくりとも動かなくなった桜子先輩を、私は覗き込んで応援しました。

「あ、諦めないでください、桜子先輩! 椿屋先輩も追い打ちかけないで!」

「ごめん」

「ほら、椿屋先輩もこう言っていることですし! 何か策を考えましょう! 私も協力しますから!」

「うう……でも、この時間に空いている服屋もないし……」

「それは、うーん……」

 悩む私たちの横に、店長はぬっと近づいてきて、渋くて低い声で言いました。

「……好きな服装に化ければいいだろう。キツネなんだから」

「あっ」
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