結婚適齢期症候群
奴のことだから、きっと平然とした顔で、「えー!」っていうこと言ってくるような気がしていた。

心の準備ってものが必要だ。

ショウヘイに気づかれないように深呼吸する。

彼は、松葉杖に手をやりながらゆっくりと言った。

「昨晩この足のせいで、帰ってから何もできず今部屋ん中がぐちゃぐちゃでさ。しかも松葉杖ってやつは思ってる以上に不便で、この状態だと一人で部屋を片づけることも出来ない上に、部屋の中も行き来できない状況なんだ。申し訳ないけど、今日俺んちの部屋の片づけ手伝ってくれないかな。」

思わず喉がゴクリと鳴りそうになった。

・・・ま、まじですか。

オーストリアで「俺のホテルに泊まれば?」っていうのと同じくらいの衝撃が私の中を駆け巡った。

ショウヘイの部屋に行って、部屋を片づけるってことは、部屋でまたもや二人きりなわけで。

一体、こいつは何を考えてるんだ?

心をどうにか落ち着けて、ショウヘイの目に視線を上げた。

「それ、私じゃなきゃ駄目ですか?」

若干緊張で声が震えた。

「他に頼める心当たりがない。君には貸しもいっぱいあるし、お願いできればと思ってさ。」

他に頼める人いないって??

男友達くらいいるでしょうが!

だけど、どうして私なの?

私には興味ないんでしょう?だったら、どうしてそんな思わせぶりな態度ばっかとるわけ?

これがモテ男の危険な習性って奴なんだろうか。

気もないのに気を持たせる。

悪びれもせず、何も考えず、相手を翻弄することがしゃーしゃーと言えてしまう。

でも、確かに奴の言うように彼には借りがいっぱいある。

オーストリアのお礼すら、まだできてないわけで。

断る理由は全くなかった。

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