結婚適齢期症候群
ショウヘイは私を先に座らせると、松葉杖を器用に使って自分も座席に腰を降ろした。

そして、タクシーの運転手に、自分の住所を告げた。

タクシーが夜の都会を走り出す。

会社からタクシーに乗るなんて贅沢なこと今までしたことがなかった。

会社帰りのサラリーマン達が疲れた顔で駅までの道のりを歩いている。

その横をタクシーはスーッと通り過ぎていく。

ちょっぴり優越感。

ショウヘイも窓枠に肘をつけ顎に手をやりながら外を見ていた。

何考えてるんだろう。

乗ってから一言も話さないし。

「それにしても災難だったわね。骨折だなんて。」

沈黙に堪えられなくなった私は窓の外を見ながらショウヘイに投げかけた。

ショウヘイが目線だけ私に向ける。

「ああ。古傷をまたやっちゃったみたいでね。」

「古傷?」

「俺、学生の頃バスケやっててさ、何度かこの左足首痛めてて、大学ん時も一度骨折したことがあって。」

そうなんだ。

学生の頃、バスケやってたんだ。

・・・私、ショウヘイのこと何にも知らない。

バツ一、・・・なことくらいしか知らなかったことに愕然とする。

それなのに、どうしてこんなにも惹かれてしまうんだろう。

そして、キスまでしてしまった。

これって、何?

私であって私でないみたいなふわふわとした感覚。

ショウヘイだって私のことそんなに知らないのに、どうしてそんなことができちゃうの?

このままタクシーに揺られてたどり着いた先に、何か見えるんだろうか。

ふと不安になった。








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