結婚適齢期症候群
どれくらい走ったんだろう。

二人とも何も会話をしないまま住宅街に入っていく。

都会の冷たい人口的な光とは打って変わって、家々の明かりは温かく瞬いている。

心なしかその温かい光に不安が少し薄らいでいった。

「次の角右に曲がって下さい。・・・はい、ああ、その角のマンションです。」

ショウヘイの家は、閑静な住宅街の中にそびえ立つ高級マンションだった。

見るからに重厚で品のあるつくりの高級マンションは、マンションでありながら住宅街の景観を損なうことはなかった。

独身男性が一人で住むには贅沢すぎるんですけど!

離婚後引っ越したの?それとも、新婚時からの住まいなんだろうか?

気になるけど聞けない。

「ここの5階なんだ。さてと、問題はこの階段をどう上るかだ。」

マンションの入り口まではスロープだったが、通りからそのスロープまでは階段が続いていた。

「昨晩もこの階段で足を取られたんだ。緩やかそうに見えて段差が低い分上りにくい。」

とりあえず、横の壁ににもたれながら片方の手は松葉杖をついて上がろうとするも、体勢が不安定でおぼつかない。

明らかにまた転倒して、更に足を悪化しかねない状況だったのを見かねて、思わず松葉杖側に私は走り寄った。

「私の肩使って。」

急に名乗り出た私を見て目を丸くするも、

「あ、ありがとう。」

ショウヘイは素直にそう言って、松葉杖を私に預けた。

私は松葉杖を片方の腕で抱え、彼の腰に腕を回した。

衝動的に駆け寄ってそんな体勢になってしまったものの、ショウヘイの横顔があまりにも近くて顔が熱くなった。

ゆっくりと、体勢を立て直しながらゆっくりと階段を上がった。

ショウヘイは、なるべく私には体重をかけないようにしてくれだんだろう。

ほとんど私に負担がかかることはなかった。

「本当にごめん。助かったよ。」

「これ、私が来なかったら玄関の扉までたどり着くまでに翌朝になっちゃってたわよ。」

そう言いながら、そっとショウヘイの腰に回していた手をほどいた。

ショウヘイは壁にもたれながら、私から松葉杖を受け取るとうつむいて軽く笑った。

「そうだな。やっぱ思い切って頼んで正解だった。」

思い切って・・・?

スロープをゆっくり玄関口まで進む。

セキュリティロックを解除してマンションの中に入った。

エレベーターホールも高級感がありとても広く思わずそわそわしてしまう。

エレベーターに乗って5階へ向かった。

「散らかってるけど、とりあえず入って。」

そう言うと、ゆっくりと玄関の扉を開けた。






< 111 / 192 >

この作品をシェア

pagetop