結婚適齢期症候群
ようやく1階に着き、扉が開いた。

飛びだした先には・・・当然ショウヘイはいなかった。

こんな目立つ場所で私を待ち構えてなんてくれないよね。

わかってはいたけど、少しがっかりしてる自分がいた。

急いで裏口に回る。

既にタクシーが来ていて、その前でショウヘイは松葉杖にもたれて待っていた。

濃紺のスーツをぴしっと着こなしているだけに、足のギブスが一層痛々しく見える。

そんな美しいショウヘイの姿に吸い寄せられるように、走り寄った。

「ごめんなさい。タクシー随分待たせちゃった?」

ショウヘイは首を横に振ると、開いたタクシーの扉から入るように手で促した。

昨日と同じように、私はタクシーに先に滑り込み、その後にショウヘイが松葉杖と共に座った。

タクシーは静かに走り出す。

昨日と同じ光景が窓の外に流れていく。

ショウヘイと同じ場所に帰る。

そして、明日の朝まで一緒にいられる。

窓の外は昨日と同じ風景なのに、その光の色は全く違っていた。

キラキラと明るくこれからの私達を見送ってくれてるような。

これは、私の勝手な妄想だけど。

ショウヘイの方をチラッと見るとショウヘイも昨日と同じ格好で窓の外を静かに見ていた。

「そうだ。」

ふにショウヘイが私の方に向いて言ったもんだから、慌てて目を逸らす。

「な、何?」

もう一度ショウヘイの方に視線を向けた。

「明日なんだけど、病院に手術の経過を見せにいかないといけないんだ。だから君より早く家を出るよ。」

「わかった。」

「これ。渡しておく。」

ショウヘイはポケットから私の手の平に冷たくて重たいモノを乗せた。

それは、

ショウヘイの家の合い鍵だった。

「合い鍵。しばらくは一緒に住むし、明日は君の方が後に出るだろ?一緒に家を出たり、帰ったりできない日もこれからあると思うから、君も持っていた方がいいと思って。」

ショウヘイはまた窓の外に目を向けた。

合い鍵はとても重たくて、でも、そのカギを持つ手が嬉しくて震えた。

「2ヶ月過ぎたら、また俺に返してくれたらいいよ。」

「・・・うん。」

返すんだ。

やっぱり。

2ヵ月経った先に、私達の関係が変わらない限り。

多分、変わらないってショウヘイは思ってる、んだよね。わざわざ返してって念押しするくらいだもん。

窓の外にうつる光が一瞬にしてもの悲しい色に変わった。







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