結婚適齢期症候群
一瞬で緊張がほどける。

ホッとしたけど、ぽっかりと胸の奥に穴が空いた。

寂しい。

ショウヘイの声が聞きたいのに。

そんなうじうじした気持ちを切り替えるべく、マキに折り返した。

きっと、今日先生と食事に行った話だろう。

マキは先生と進展あったのかな。

「あー!チサー!こんな遅い時間にごめぇん。」

声大きいって。

思わずスマホから自分の耳を離した。

「どうだった?先生とは。」

「う・・・ん、食事はとても楽しかったわ。先生の話もすごく興味深くておもしろかった。私も本格的に趣味で陶芸やろうと思ったよ。」

「そう、よかったじゃん。先生とはどんな話したの?」

「どうして陶芸家になろうと思ったかってこととか、奥さんとのなれそめとか。」

奥さん。

「奥さんはどんな人だったの?」

「先生の話だと、いつも優しく笑っててね。どんなに苦しい生活を強いられていた時も愚痴もこぼさない、天使みたいな女性だったって。」

「へー。すごく素敵な人だったんだね。」

マキは今は亡き奥さんに嫉妬はしないのかしら。

でも、それだけ素敵な女性だったら、焼き餅焼くほど情けない気持ちになりそうだわ。

「先生ね。生涯、愛してるのは奥さんだけだって。奥さんと出会ったことが自分の一生の中で一番素晴らしい出来事で幸せだったから。それ以上の幸せはこれからもないと思うだって。」

「振られたの?」

「はっきり言ってくれるわね。そうよ、振られたわよ。」

マキは寂しそうに笑った。

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