結婚適齢期症候群
1年前を思い出しながら、宮殿への道をたどる。

ガイドブックくらい持ってこればよかったのに。

あ・・・。

目の前に朝日を浴びて輝くシェーンブルン宮殿の姿が見えてきた。

なんだろ。

会いたかった人にようやく会えたようなそんな切ない気持ちになっていた。

何人ものサラリーマン達とすれ違う。

ようやく入り口の門までたどり着いた。

朝早いからまだ開錠されていないと思ったけれど、門は大きく開いて待っていてくれた。

そっと入っていく。

会いたかった青い空と庭園が目の前に広がっていた。

思わず口を押さえる。

朝の金色の光が眩しいくらいに庭の美しさを際立たせていた。

近くにあったベンチに腰を下ろす。

いつまでも見ていたい光景が私の前に贅沢に広がってる。

私以外にも朝の散歩をしている老夫婦や若者達の姿が点々と見える。

なんて穏やかな光景なんだろう。

この場所を教えてくれたショウヘイにありがとうを言いたい。

ベンチの横をすっと通って行く人影が目の端に映った。

太陽光線が丁度逆光になってその人影は人影のまま私の前を通り過ぎて行った。

なぜか見覚えのある身長と体型。

・・・まさか、まさかね。

その人影は肩にかけたナップサックを自分の足下に置いた。

そして、シェーンブルン宮殿を振り返ると右手をつばにして空を見上げた。

顔がかすかに見える。

その人影は。

嘘でしょ。そんなわけない。似てるけど、そんなことがあるわけない。

思わずベンチから立ち上がった。

ゆっくりとその人影に近づいてゆく。

まだわからないわ。はっきり顔が見えないもの。

その人は、足下に置いたナップサックからペットボトルを取り出すと、今度は庭の方に顔を向け飲み出した。

段々近づいてくるその横顔は・・・


・・・ショウヘイ?
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