結婚適齢期症候群
お茶室の入り口に人影が揺れる。

ミユキにしては背が高いような・・・

足が見えた。男の人の靴?だ、誰よ!

思わず、声を上げそうになってぐっと抑え込んだ。

それは・・・



「ここにいたのか。」

そう言いながら入ってきたのは、彼だった。

ずっと連絡を待っていた澤村ショウヘイ。

両手に美味しそうなお料理が盛られたお皿を持って。

一気に緊張がほどけていく。

「もう!驚かせないで。」

思わず、安堵と怒りの入り交じった気持ちがこぼれた。

「ごめん。色々心配かけちゃったみたいで。なんとか徒歩とバスを乗り継いで会場に向かったんだ。そしたら、こういう事情だって岩村課長から聞いて。とりあえずこれ持って謝っとけって持たされた。」

ショウヘイはそう言うと、お茶室のカウンターに両手のお皿をそっと置いた。

料理だけ?お酒は?そう言おうとしたとき、

「それから、」

彼は両サイドのズボンのポケットからビールを2本取り出してお皿の横に置いた。

「これは、今回のお詫びも込めて俺から。ここに来る途中買った。飲みたいだろうと思ってさ。」

「あ、ありがと・・・。」

あまりにも気の利いたことするもんだから、言いたい事はいっぱいあったのに言えなくなっちゃったじゃない。

「お腹空いてるだろ?とりあえず早く食べなよ。」

「あなたは?」

「俺は、腹減ってないし。大丈夫。」

「・・・はい。一人では飲みにくいから一緒に飲んで。」

もらったビール2本の1本をショウヘイの方に差し出した。

「いいよ、俺。ほんと、大丈夫だし。」

「これ以上借り作りたくないから。」

そう言いながら、彼の手に持たせた。

「借り、ね。」

ショウヘイは、ふっと笑った。

なんだか失礼な言い方だったかしら。

言ってしまってから少し後悔する。





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