君のために未来を見よう〜教王様の恩返し〜
「じゃあ、これからカドラスのところで会議だから」
行き先を背中越しに伝え、レイが室外へ消えていく。
「いってらっしゃいませ」
ドアの音と同時に、自然とため息が出る。

窓を開け放ち、フィーはベランダへ向かった。
体をすり抜けていく風に気持ちのよどみを流したかった。呼吸をするたびに、澄んだ空気が体に染み込んでいく。
ふと足元に目をやると、レイのお気に入りのボールや棒が転がっていた。噛み跡と砂埃で幾分か汚れている。最後に使ったのはいつだったろう。
フィーはボールを手に取り、布で拭き始めた。少しでもきれいになるよう、無心に磨く。
久しぶりに感じる穏やかな時間。こんな些細なことが妙に幸せに感じられる。
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