君のために未来を見よう〜教王様の恩返し〜

タッタッタッタッタ……。

限られた者しか入室できない教王の私室。
おそらく応接間であろうこの部屋に奔放に走り回るレイがいた。

ドアが開く音に反応したらしく、造花ならぬ造犬にでもなったかのように動くのをやめて、フィーを凝視している。
体高が７０センチはあるだろうか。改めて至近距離から見ると、その大きさに戦慄すら覚える。

「あの……は、はじめまして、レイ様。私はフィー・アッバスと申します。今日からお世話をさせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします」
犬とはいえ主人なのだから敬語を使ったのだが、それが正解なのか滑稽なのか、自分でもよくわからなかった。

レイは足音もさせず、一歩ずつ距離を縮めてくる。
フィーはそれと同じ分だけ後ろに下がり、間合いを保とうとした。
背中が壁にぶつかり、ついに追い詰められたのだが、それでもさらに壁にめり込みそうなくらい後ろへ下がろうとする。


その瞬間。

レイが急に駆け出し、フィーに飛びかかってきた。