君のために未来を見よう〜教王様の恩返し〜
5 公表

 牽制

あまり眠れないまま、夜が明けた。
厚い絨毯の上とはいえ、床で眠るとやはり体が痛い。

何と話しかければいいのだろう。
声をかけにくい。気付かなかったフリという白々しい演技なんてできそうもない。


「フィー、起きてる?」
ノックもせずに悩みの種が部屋へ入って来た。

「レ……レイ様!! ……おはようございます」
「なかなか部屋から出て来ないからさ。もう隠れてなくていいって事を伝えようと思って」
「……女性は帰られたんですか?」
分をわきまえながら、それでも重要な部分は確認したかった。

「王女」
「え?」
「昨日の女性はエリーサ王女だよ。聞こえてただろ?」
レイがからかうように笑う。
普段と同じ態度なはずなのに、昨日の情事を知っているせいかやけに艶っぽく見えてしまう。黒い瞳に囚われそうで正視できない。

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