君のために未来を見よう〜教王様の恩返し〜
フィーの表情に、今度はレイが驚いたようだった。

「これを機に辞める気でいた?」
「ちっ、違います! 私はあくまで臨時で、非公式な従者でっ! 本来ならちゃんとした方々が……」
レイにそんな風に思われたくなくて、気持ちばかりが先走ってしまう。急く気持ちに言葉がついて来ない。

「フィーだって、ちゃんとしてるだろ」
レイが不思議そうに笑う。


その笑顔に救われた気がした。


『ちゃんとしてる』の意味が、二人の中ではきっと違う。
それでも、誰かにそんな風に言ってもらえたことがこんなにも嬉しかった。

『周りが許さなくても、自分だけは変わらずにいよう』
あの時、そういった形でしか激変した環境に抗う方法を知らなかった。
その想いが静かにすくい上げられ、ほのかな光を浴びたようだった。


きっと今なら伝えられる。
いつか自分の口から言おうと思っていたのだから。

「私、本当ならレイ様のお世話ができるような身分じゃないんです」
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