きみいろ~そして二人は恋をする~
「クラウス様・・・よろしいでしょうか?」

物静かな声が室内に突如響いた。そして、その声のするその方向に振り向く。

「何かわかったのか・・・キエル」

クラウスの目の前にいる人物―キエル・ルーアン
にそう呟いた。

キエル・ルーアンは若干18歳で医官に任命された天才医師。
王立治療院の主席医官であり、王太子付き医官でもある人物である。
その卓越した能力に、当時の宮廷医官長は自身のもつ知識や技術、ありとあらゆること伝授したという。

そして王子たちが北部離宮にいた頃から、常に王子の傍にいた人物であり・・・。
敵の多い王宮内でクラウスや王子がもっとも信頼している人物でもあった。

そのキエルが硬い表情で、そして努めて冷静な口調を保ちながら・・。
目の前にいたのである。

「大変申しにくいことなのですが・・・。」

努めて冷静に伝えようとしていることが、クラウスにも分かる。
そして、彼の瞳には悲しみが漂っていた。

言い出しにくいことがある場合、いつもキエルはこのような表情を見せる。

他の人は気づかないくらいの小さな表情。
しかし、クラウスはそのわずかな表情の変化を見逃してはいなかった。

「・・・・・・・。」

言葉を紡いでも、この現実は変わらない。

キエルはかたい表情を見せながら、毅然とした表情でクラウスを王子の元へ誘導した。

(悠長にしている暇はないということか・・・)

クラウスはキエルのそんな雰囲気の中で、時間があまりないことを悟った。

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