恋する病棟、24時
「(恋人か……)」
そう思い浮かべて頭の中に現れてきたのは純白の白衣に身をまとった黒髪の端整な顔の男性だった。
同じ病棟に勤めている氷川司先生。仕事が出来て周りからの信頼を厚く、クールで無口だけどそれがかえって知的な面をクローズアップさせている。私にとっては雲の上のような人。
あんな人が恋人だったらいいのになぁー。
「うぅ、氷川先生と付き合いたいなぁー」
誰にも聞かせられないような言葉がその時ばかりは制御不可能な口からテーブルの上に流れ出た。
なんて、こんなこと言ったってあんな格好いい人が私なんかを好きになってくれることなんて絶対にないのに。
絶対に、
「いいですよ、付き合いますか?」
ないのに……
「……へ?」
耳に届いた低い声に私はテンポ遅れで反応すると体を起こして顔を前に向けた。するとそんな私のことをただ一心に見つめる瞳がそこにあった。
その瞳の持ち主は今頭の中に浮かんでいた顔にそっくりな容姿をしていた。
「付き合いましょうか?」
そう口にしたのは紛れもない、氷川先生だった。