BAD & BAD【Ⅰ】
私の成績について深刻に悩んでいる小泉パパの説教が、ようやく一区切りついた。
職員室にある時計は、ちょうど5時半を示している。
もうこんな時間!?
早くしないと、桃太郎のケーキが皆に奪われちゃう!
「小泉パパ、説教終わった?終わったよね!?」
「ま、まだ終わってな……」
「終わったんだね、わかった。私、用あるからもう行くね!さようなら!」
私は早口で一気にそう言って、無理やり押し切った。
「あっ、おい……!」
小泉パパの呼び止める声に耳を傾けずに、逃げるようにこの場をあとにする。
私が職員室を出る時、とある男子生徒とすれ違った。
「ったく、仕方のない奴だ」
「小泉先生、ノート提出しに来ました」
「おう、十蔵寺。ん、確かに受け取った」
「あの、さっきの女って……」
「ん?」
「……いえ、なんでもありません」
男子生徒は、私に関して探るような言い回しをしかけた寸前で、言葉を飲み込み口をつぐんだ。