BAD & BAD【Ⅰ】
「どっかで見かけた気がしたんだが、気のせいか」
妙な胸騒ぎが過った男子生徒の独白は、誰にも拾われることのないまま、しゃぼん玉が割れたように消えてしまった。
夕闇が、迫る。
影が濃くなっていくにつれて、走るペースがだんだん速くなっていく。
走れ、走れ、走れ。
走れメロス……!
あ、間違えた。走れ幸珀!
「ケーキを我が手にするまで、走れぇえええ!」
私は一度帰宅して、早着替え選手権で優勝できそうなくらいの速さで男の姿になり、今洋館を目指して突っ走っている。
全ては、ケーキを食べるために!
食い意地が張ってると言われても構わない。
私はただ、己の欲望を原動力に走ってるだけだ!
それの何が悪い!!
空に星が灯る前に、洋館にたどり着いた。
よっし、計画通り。