BAD & BAD【Ⅰ】
やめて。
触らないで。
“あの人”の手でも副総長の手でも、お母さんの手でもないこの手は、大嫌いだ。
嫌だ。
嫌だ。
嫌だ!
「嫌っ!!」
叫びながら起き上がり、冴えた目を陰らせる。
はあはあ、と肩で呼吸をしながら、血の気が引いた真っ青な顔に滲む汗を拭った。
枕元に置いてあった目覚まし時計を、一瞥する。
時刻はまだ午前4時前。
だんだんと悪夢が消えていき、何にこんなに焦燥していたのか、虚無感に襲われる。
でも、前髪には、誰かに撫でられた感触がわずかに在った。