BAD & BAD【Ⅰ】
思わずこぼれた独白は、誰にも拾われることはなかった。
「幸珀、下の階の方に行くぞ」
「え、あ、うん」
たかやんは小さな舌打ちを残して、早足でこの場を去って行った。
私はたかやんを追いかけながら、横目でへんてこな髪型の男子を凝視していたら、
一瞬だけ目が合ってしまい、咄嗟に視線を外した。
たかやんの知り合いなのかな。
妙に気になる。
あの男子、たかやんの存在に気づいていたようだったのに、決してたかやんと視線を重ねようとはしなかった。
どうしてだろう。
「さっきの、誰?」
「あ?」
「ちょ、怖い怖い。愛想よくにっこり笑わないと、女の子にモテないよ?」
「余計なお世話だ。やめろ」
階段を下りてから、私はたかやんの引きつった顔をほぐそうと、たかやんの口角を人差し指でクイッと持ち上げてあげた。
「さっきの、『NINA』って呼ばれてる奴だよね?」
人差し指を放した私に、たかやんが驚く。