BAD & BAD【Ⅰ】
繁華街の路地裏って、こんなにも静寂としていて、人気のない場所だった?
もっと、騒々しくなかった?
「幸珀、どうしたの?」
立ち止まった私に気づいて、師匠が声をかけてきた。
だが、私の聴覚はその声を受け付けなかった。
反応のない私に、師匠と真修が不思議そうに首を傾げる。
おぼろげにくすぶっていた違和感が、だんだんと色濃く、鮮やかになっていく。
……あ、そうか。
ハッとして、路地裏の全体を見渡す。
不良が、少なすぎるんだ。
以前は、繁華街にはびこる闇を象徴するように、大勢の不良が路地裏に佇んでいた。
けれど、今は、ここにたむろしていた面影も、形跡も、残り香も、何も残っていない。
まるで、最初からいなかったみたいに。
「そういえば、」
神雷のメンバーが喧嘩しているところを、少なくとも私が神雷に加入してからは見ていない。
それが、違和感の根源。
神雷は喧嘩をしていなかったんじゃない。
誰にも喧嘩を売られなかったんだ。