BAD & BAD【Ⅰ】
満タンに残っている缶コーヒーの熱はとうに冷め、手のひらに伝わるのは生ぬるい温度だけだった。
「……俺にも、あるんだ」
「何が?」
「話さなくちゃ、いけねぇこと」
歯切れの悪い言い方から、いとも簡単にたかやんが内心怖がってるのを見破れた。
私は方向転換して再度椅子に座り、コーヒーをテーブルの上に置いた。
「無理してるでしょ?」
「してねぇよ!」
ニヤニヤしながら聞いたら、たかやんは反射的に意地を張った。
取るに足らないプライドがそうさせているのだろうか。
でも。
今まで頑なに言いかけては黙秘し続けていたたかやんが、「話さなくてはならないことがあること」を私に教えられたのは賞賛に値する。
大きな一歩を踏み出したね。えらいぞ。
「自分の中に溜め込むのは、やめたいんだ……っ」
たかやんは『弱音を溜め込まないために』なんて本を買うくらい、悩んでいた。
私みたいに、誰かに相談すればよかったのに。
弘也っていう、チャラい弟もいるんだし。
でも、できなかったんだ。
兄弟にも、言えなかった。