BAD & BAD【Ⅰ】
「すぐお前より強くなるっつーの!」
「ワア、タノシミー」
「思ってねぇだろ、絶対」
茶色い髪に雨粒を垂らしながら、唇を大きく曲がった。
ブツブツ独り言を連ねる朔を、伏し目がちになぞる。
『秘密を、聞いちゃったんだ』
朔も、知らない。
私とあいつの、秘密。
あぁ、できることならいっそ、忘れてしまいたい。
忘れられたら、どんなにいいだろう。
あの秘密を聞かなかったら、あんなことにはならなかったのかもしれない。
描いた「もしも」は、濁った雨にかき消されてしまう。
雨がだんだんと激しくなってきた。
これ以上雨に濡れて、風邪を引いてしまう前に、私と朔は屋上前の踊り場へ避難した。