BAD & BAD【Ⅰ】
どうしようもなく、嫌な予感がした。
「俺、見ちまったんだ」
「何を?」
それでも、平静を保った。
保つことしか、できなかった。
「路地で、新入りが自分のことを『私』とか『女だから』とか言ってるところを」
しん、と静まり返る。
「お前、本当は……」
鼓動が激しくなる。
心臓が飛び出してしまいそうだ。
「女、だったのか?」
桃太郎の色あせた眼差しが、私を貫く。
桃太郎の態度がおかしかったのは、私が女だってわかっちゃったからだったんだ。
男だと思っていた人が実は女だったら、そりゃあ動揺するよね。
さっきまでの静けさが嘘みたいに、周りがどよめき始める。
「幸珀が、女!?」
「まじかよ……」
「嘘だろ?」
「俺らを、騙してたのか?」
主に下っ端達のうろたえている声が、私をグサグサ突き刺した。