BAD & BAD【Ⅰ】
静かに立ち止まるが、振り返りはしない。
「悔しくねぇのかよ!怒んねぇのかよ!悲しくねぇのかよ!どうして、そんな、平然としてられんだよ!俺らを騙してて楽しかったか!?動揺する俺らを見ておかしかったか!?」
ひどいな。
これは、ひどい。
私は、ひどい悪役を演じられていたようで、ホッとする。
「……ちょっとでも、後悔、してろよ」
桃太郎は、やっぱりちょろいね。
そういうとこ、結構、好きだったよ。
「あのさ」
ようやく私が声をかけてきて、桃太郎はビクッと反応した。
少しだけ桃太郎の方を向いて、口角を上げる。
「私、もう『新入り』じゃないよ。ただの幸珀だよ」
そう言い残して、今度こそ桃太郎から距離を取った。
帰路がやけに、短く感じた。