BAD & BAD【Ⅰ】
また、落ち着いていて心地よい沈黙が流れた。
今回沈黙を切ったのは、凛の方だった。
「前にさ、どうして全力を出さないのか、聞いてきたことがあっただろ?」
「うん。それで凛は、俺は天才だ的なこと言ったよね」
「んなこと言ってねぇ」
「言ったよ」
数回「言ってねぇ」「言った」の言い合いが繰り返された。キリがないな。
凛はムッとして、唇を少し尖らせる。
「それで、それがどうしたの?」
「……その時に言ったのは、嘘じゃねぇけど本当でもねぇ」
「え……?」
いわゆる、建前、みたいなもの?
他に理由があるの?
「本当は、何なの?」
「“あの日”幸珀が悪役になっちまって、思ったんだ。俺はずっと真っ直ぐ生きるのが正しいと信じてきたけど、それは間違いなんじゃないかって」
「それが、全力を出さなくなった本当の理由?」
「ああ」
もしかして、凛はずっと、“あの日”に呪縛され続けていたの?