BAD & BAD【Ⅰ】
真っ黒な傘をさして雨粒を弾いている、1人の男が、グラウンドの真ん中で佇んでいた。
追いかけっこの時間はおしまいだと、教えるように。
「な、んで……っ」
「待ちくたびれたよ」
眼を瞠って動けない私に、一歩また一歩と近づいてくる。
待って。
嘘、なんで。
あなた、なの?
あなたが、NINAを騙っていたの?
目の前まで寄ってきて、ぎこちなく男の顔をなぞる。
忘れたくても忘れられなかった顔が、そこにあった。
「会えて嬉しいよ。――本物の、NINA」
私を「NINA」と呼ぶ、この男の秘密を、私は知っている。
そして、私も。
この男に、秘密を知られている。
全てではないけれど。