BAD & BAD【Ⅰ】
『でも、いじめをやめさせようと行動したことは、すごく、すごくえらいわ』
『お、母さ、』
『怖かったでしょう?よく頑張ったわね』
『うん……うん……っ』
泣きそうになった私は、気がつかなかった。
お母さんの手が、震えていることに。
『……お母さんは、できなかったわ』
『え?』
溢れた涙が、枯れる。
『お母さんが中学生だった頃にもね、クラスでいじめがあったの』
静かに語り出したお母さんは、ひどく綺麗な夕焼け空を眺めた。
結局、涙は滴らなかった。
『いじめる標的は、お母さんの親友だった。あとでわかったんだけど、その子はね、蒼……お父さんの双子の妹だった』
親友『だった』、双子の妹『だった』なんて、どうして、過去形なの?
そう、聞くに聞けなかった。