BAD & BAD【Ⅰ】
その代わりに、
『名前はなんていうの?』
と、できるだけ明るく聞いた。
『名前は、円堂 仁奈【エンドウ ニナ】。ちょっと天然だったけど、可愛いという言葉が似合う女の子だったわ』
あ、また。
女の子『だった』って、過去形。
どうして?
『仁奈、さん……。名前も可愛いね』
『そうでしょう?』
含み笑いするお母さんの横顔は、穏やかで、それでいて悲しそうだった。
『自慢の、友達だったの』
でも、と声を落として俯く。
『あたしは、自分がいじめられたくなくて、仁奈を助けられなかった。見て見ぬフリをして、拒絶したの』
母親として振舞えなくなったのか、「お母さん」ではなく「あたし」と口にしたお母さんに、私は何も言えなかった。
何を言ったらいいか、わからなかった。