BAD & BAD【Ⅰ】
私は、NINAであって、仁奈さんじゃない。
私も仁奈さんの名前を借りてるに過ぎない。
目の前の男は、その真実を知らない。
この男が知っているのは、私がNINAと名乗っていることだけ。
しかし、秘密を握られていることには変わりはない。
「あんたが、偽物のNINAだったの……?」
問いかけた声は、思いの外、小さかった。
戦慄が、止まらない。
「そうだよ」
男に影を落としていた真っ黒な傘が、やや傾いて。
朔よりも凛よりも整いすぎている、麗しい顔立ちがより鮮明に見えるようになる。
コスモカラーに染まった、右側が長いアシンメトリーの髪型。
左に3つ、右に4つもジャラジャラと付けているピアス。
私に会えた時しか柔らかくなることはない、本来は無愛想な表情は、クールな雰囲気を醸し出す。
誰もが認める国宝級のイケメンである、この男の名前は、渡部 善【ワタベ ゼン】。
大学3年の、21歳。
朔の兄なので、私は彼のことを「善兄」と呼んでいる。