BAD & BAD【Ⅰ】
前に、私の部屋に不法侵入して手紙を置いてきた、あいつだ。
「なん、で」
「なんでNINAを名乗ったのかって?」
チビな桃太郎が羨むであろう、180センチ超えの高身長である善兄は、必然的に私を見下ろす形になる。
それもまた不快感を植え付けて、皮膚がひりついた。
「幸珀に会う口実、っていう理由もあるけど。一番はやっぱり、NINAを……幸珀を知りたかったからかな」
現在、朔や親と一緒に住んでいない。
大学の学生寮で一人暮らし中。……のはず、だった。
だから、油断していた。
会うわけがないと、高をくくっていたのだ。
どうして、善兄がこの町に……私のそばにいるのだろう。
夏休みだから帰省しに?
それとも、別に何か……。
「あ」
一音だけこぼされて、私の頭上に降り注いでいた雨が途端に遮断された。
今度は私の方に、真っ黒な傘が影を作っていた。