BAD & BAD【Ⅰ】
「風邪ひいちゃうよ」
愛おしげに言う善兄が、ひどく気持ち悪かった。
やめて。
しぼんだ声より先に、手が動いていた。
バシッ、と傘の持ち手を手の甲で弾いて、拒否した。
地面に、傘が転がる。
「勝手に、大切な名前を騙らないで」
やっと、声が、出た。
剛なら、まだマシ。
善兄は、嫌だ。
世界で一番嫌いな人だから。
「でも、名乗ったおかげで、幸珀の方から追いかけてくれたでしょ?」
「わ、私は!あんたになんか、会いたくなかった!!」
善兄は、私と朔と真修の自慢のお兄さんであり、遊び相手であり、憧れであり、よき理解者だった。
――善兄の本性が、あらわになる前は。