好きになった人は吸血鬼でした。ーさくらの血契1ー【完】
座敷に通された二人。
庭は思ったより広く、植木や鉢が整えられている。
「これは、紅亜様にはご覧いただけないものなんですが、真紅には少しでも影小路のことがわかれば、と」
向かいに座った黒藤。涙雨はずっと真紅の肩に乗っている。
縁は三人分のお茶を用意してから、端の方で正座している。
そういえば、黒藤の式は三基だと聞いたが、最後の一人は気配を感じもしない。
「水鏡(みずかがみ)といいます。本来なら、別の場所にいる二人の対象者が同時に術を使って交信する連絡用のものなのですが、今は影小路本家に俺が一方的に繋いでいます。
向こうと話したりは出来ませんが、あちらの様子を見ることは出来ます」
そう言った黒藤は、胸の辺りに片手を軽く掲げて、口の中で消えるほどの音量で何か言った。
するとそこに水滴――水が集まり始めて円盤状になった。
黒藤と真紅のお互いに裏表がちょうど見えるように、垂直に浮かんでいる。
真紅が驚きに目を見開いている間に、黒藤はそれを完成させたようだ。
「本家にいる、母上です」