好きになった人は吸血鬼でした。ーさくらの血契1ー【完】
「………」
黒藤一人ということは、母の存在も認知されていないのだろうか。
「……ママ――お母さんが、影小路姓に戻ることはないの?」
「紅亜様が復帰されるということか?」
つと、黒藤は紅亜に視線を遣った。
「……恐らくは、ないな。出来ていたら、母上が当主であった間にやっている」
「それはどうかしら」
黒藤の言葉に、紅亜は首を傾げた。
「どういう意味です?」
黒藤が問い返すと、紅亜は難しい顔で答えた。
「黒ちゃんがどの程度知ってるかはわからないけど、紅緒は誰より影小路が嫌いな子だったわ。
何度も家出して、私のところへ来ていた。
けれど、正統後継者という地位からは逃れられないで、当主に就いた。
……無涯を連れて行ったのは、影小路への意趣返しでもあったと思うわ」