好きになった人は吸血鬼でした。ーさくらの血契1ー【完】


海雨があたふたと頭を下げると、紅緒はすっと目を細めて微笑んだ。


顔の造形は母と同じはずなのに、母が柔らかい印象であるのに対して、紅緒は微笑みですら鋭く見える。


「真紅はこれから、わたくしと姉様と一緒に影小路の家の一つで暮らすことになります。早く、遊びに来られるように元気になってくださいね」


「は、はいっ」
 

海雨は緊張気味だが大きく肯いた。


真紅は唇を引き結ぶ。――海雨の身体に残った妖異の残滓(ざんし)。


少しずつ、海雨の命に触れないように、目に見えぬほどの糸を断ち切るように真紅が浄化していくのだ。


(……やれる)
 

やるんだ。
 

――そのために、影小路に入るのだから。

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