好きになった人は吸血鬼でした。ーさくらの血契1ー【完】
「そろそろ戻ります。本家もそのままにしてきてしまいましたから」
「すぐに戻った方がいいですよ。母上待望論も多くありますから」
紅緒は納得のいかない顔で黒藤を見返してから、手の中で術式を発動させた。
人を覆うほどの水鏡が出現して――普通の人には視えないもの――、紅緒は黒藤を振り返った。
「出来ることなら、お前も一緒に暮らしてほしいものです。本家でとは言わないから、考えておきなさい」
そのまま、水鏡の鏡面に姿を消した。
母の影までが鏡に呑まれると、水鏡は霧散した。
黒藤は術式の残滓を手中に収めて、握りつぶした。
「俺は一人のが合ってるんですよねえ」
白以外といるのは、なかなか苦手なんです。