もう一度、名前を呼んで2
「エリク!」
「ジュリア,今日は休みなの?久しぶりだね」
チームの拠点である古いビルに,ジュリアがやってきた。
「休みよ。それより,何か進展はあった?」
「それが…」
エドはもう,1カ月も家から出てこない。
同時に,アイナの情報もほとんど入手できていなかった。
「日本にいることは間違いなさそうなんだけどね…」
「リンとティルは?」
「寝てるよ。深夜のほうがスムーズだし,日本の活動時間に合わせられるから逆転してるんだ」
情報収集を得意とする二人ですら,全然情報がつかめない。
「…アイナはやっぱり何か特別なおうちの子なのかな」
小さいうちから一人でこちらの学校に通い,特別な教育を受けていた。
情報がつかめないのは隠されているからだ。一般人なら,これだけやれば住んでいる場所も生活習慣もすべてわかるのに。
「…エドなら,あの組織を使えるわ」
「まさか。無理だよ」
「あの家は繋がりがあるでしょう」
「でもエドが個人的になんて…」
世界的に暗躍する組織がある。情報能力にも長け,裏で世界を牛耳っているとさえ言われるが,あの組織の根本は暗殺だ。
エドの家とのつながりも暗殺依頼をしたことがある,という程度のはず。
「ただの人探しなんて依頼できないよ」
「…俺がアレに依頼すれば見つかんのか」
「「エド!!!」」
エリクとジュリアが意気消沈しながら話していると,エドの声が聞こえた。
「来たのね…」
「俺が依頼すりゃあ見つかんのか?」
「えっ…」
「MOONか…確かに見つかるかもな」
「でも,エド!」
「…1週間待ってろ。戻ってこなかったら諦めるんだな」
数カ月ぶりに家から出てきたエドはげっそりと痩せており,精悍だった頃の面影はない。
しかし目には強い意志が宿っているようだった。
「ジュリア…」
「…私が変なことを言ったせいね」
「…」
「だけどもう,他に手がないのよ」
みんな疲れていた。
この場に笑顔をもたらした天使のような女の子を失い,それを取り戻そうにも見つからない。
MOONへの依頼は本当に最終手段だった。
「エド,頼むわよ」
MOONもさすがに西岸最大のマフィアの次期ボスを無下にすることはあるまい。
エドの肩書に一縷の望みをかけた。