もう一度、名前を呼んで2
変調
*藍那*
「…?」
最近何やら,視線を感じる気がする。特に一人でいるときに。
車から降りて家に入るまでの数十歩の間だったりとか,音楽室の窓際で雲を眺めている時だとか,教科書を眺めている時だとか…
でもみんなが何も言わないしいつもと変わらないから,気のせいなのかもしれない。
危険な感じの視線でもないようだし,周りを見渡すとなくなる程度のものだ。
鳳狼の誰かがあたしの行動を監視してる可能性だって無くはないしね…。
最近はそんなことを思いながらのんびりと過ごしていた。
だけどある日。
「あ…」
家の近く。塀の角を曲がっていったあの人。最近急によく見るようになった人だ。
「ねえ悠唏,この辺りって新しく引っ越してきた人とかいる?」
「あ?いねえと思うけど…」
「そうだよねえ」
一軒家ばかりが立ち並ぶこの住宅街で,新たに引っ越してきた人がいればすぐに分かる。
なによりうちと悠唏の家は隣同士だし,周囲に住んでいる人たちとは顔見知りだ。
「どうしたんだよ?」
「んー最近見慣れない人がいるなあと思って」
「は?」
昨日も朝,見たと思う。
だけどもし監視かストーカーならこんなに簡単にばれるような動きをするだろうか?
全くの素人にしては行動が自然すぎるし,でも慣れた人にしては分かりやすすぎる。
「…嫌な感じはしないんだけど,気を付けるね。悠唏も気を付けて」
鳳狼関係で反感を買って何かあることは確かにあるけれど,あたしの場合それだけじゃない。
パパの会社はどんどん大きくなっていてライバルもたくさんいるようだし,あたしは家にお手伝いさんとあたしだけっていう状況によくなるし,防犯面でも気を付けたほうが良さそうだ。
「…ちょっと調べさせるか。護衛も強化する。一人で出歩くなよ?」
「うん」
難しい顔をした悠唏が玄関先で家に入るあたしを見届けるようになったのはそれからだった。