もう一度、名前を呼んで2
「待たせたな」
「ううん」
理流が何本ものビール缶を片手に戻ってきた。
「で~なんだっけ,何の話?」
「理流が留年した理由」
ははは,そうだそうだと笑っている。なんとなく,急に私たちの周りだけ静かになった気がする。みんな向こうの方にいる。
「ん~どこから話すかな…」
「理流はどうして鳳狼に入ったの?」
今日みんなに聞いてることだ。理流は何でだろう
「きっかけは俺から喧嘩売りまくったことだな」
「え」
「高校入ったタイミングでこっちに来て,一人暮らしだし夜とか暇だろ?そんで,あの辺を締めてるのが鳳狼だってのを聞いてそれっぽいやつらに片っ端から喧嘩売った」
「嘘でしょ…」
「今いるやつらはあんま知らねえけど幹部は知ってんぞ」
そんな……幹部の中では僚と並んでまともそうな理流がそんなことしてたなんて…ビックリすぎる……
「ははは,藍那すげー顔してんぞ」
「ビックリしてる……」
「まあ,だろうな」
「な,なんでそんなことしてたの…」
「ん~……」
カン,カン,とほとんど空いているらしい缶を小さく叩いている。言いにくいことなのかな
「無理して言わなくても…」
「いや,いいんだけど。これは誰も知らねえことだから悠唏にも言うなよ?」
「うん…?」
誰にも言ってないこと?そんなのあたしに言っていいの?
「俺の実家,マジの極道なんだよ」
「ごくどう」
「そ。ヤクザ?ジャパニーズマフィア?」
「Japanese Mafia…」
えっ,えっえ……?
「え……マフィア…」
「目が点になってんぞ」
「そりゃ,そうでしょ…」
日本のマフィアは一体どんなことするの?危険?こんな,暴走族の抗争とは全然違うあの張りつめた空気で殴り合いじゃなくて殺し合いをするの?理流がそれ?この,頼れるお兄さんみたいな理流が?
「……驚かせて悪いな」
「いや…大丈夫なんだけど…」
「ここに居るやつらを巻き込むつもりは本当にないんだ。俺が鳳狼に所属してるってことは僚も,うちの家も徹底的に隠してる。でも卒業したら俺は家に戻らなきゃならない。でもどうしても,幹部のやつらと一緒に抜けたかったんだよ」
「……」
「俺だけ一つ上だろ?あいつら残して家に入るなんて,ぜってー気になりすぎて本当は関わっちゃいけねえのにここに戻ってきてしまうと思ったんだ。そんでまあ,適当に理由付けて留年した」
「そうだったんだ…」