もう一度、名前を呼んで2

「今,こいつらと一緒に居られてほんとに良かったと思ってるんだ」
「ん?」
「……今後,なんかあっても今のことがあれば後悔せずに生きていける気がする」
「……」
「龍毅がバカやってんのを見んのも,舜が生意気やってんのも,僚が必至でチーム回してんのも,悠唏がカリスマ性発揮すんのも。幹部じゃねえ奴らが楽しそうに笑ってんの見るのも……」
「うん……」

理流はみんながワイワイ話しているのを遠くから眺めている。あたしに目を向けるわけではなくて,ずっとみんなを見てる。何か思うことがあるんだろうか

「……藍那が急に現れたとき,正直不安もあったんだ」
「え,」
「紫蛇のこともあったけど,毎日楽しくやってたのが女関係で壊れるって言うのはよくある話だからな」

そうなんだ……

「しかも総長の悠唏が入れ込んだろ。あーあ,俺の好きな場所が変わんのかなって思って…」
「ごめん……」
「いや!ちげえよ?結局,藍那がここに居てくれて良かったって今は思ってんだよ」

本当かな…理流は優しいからそう言ってくれてる気もする。

「悠唏はあんなだから口数も多くないし,チームのことは大事にしてんだろうけど,他に何考えてんのかわかんなかったんだよ。喧嘩してる時も心ここにあらずだし,でも文句なしに強えから俺もなんも言わなかったけど。笑っててもふっとつまんなそうな顔するし,頭が良くて喧嘩もできてカリスマ性があるやつっていうのは可哀相なもんかもなって思ってたんだ…」

そういう話を聞くと,あたしは悠唏のことをあまり知らないっていうのを実感する。幼馴染とはいえ,一緒にいなかった時間が長い。そしてその時間を見てきた理流には,悠唏はそんな風に見えてたんだ…
いつも私のことを大事にしてくれているのはチームのことも大事にしてた延長かと思っていた。だけど,もしかしたらそういうわけじゃないのかな…

「だけど,今の悠唏は生き生きしてるよな」
「そう?」
「今日だって,あんな風に下のやつらと一緒になって砂浜走り回るなんてなあ…」

意外なことだったのかな?舜くんはそんな感じでは言ってなかったけど…

「ああいうの珍しいの?」
「いや,行動自体は珍しいわけじゃねえんだ。結構一緒に走りに行ったり飯食ったりとかもするし。でもな~…」
「…なに?」
「今までの悠唏は,“そうしたほうが下のやつらが信頼してくれるからそうする”っていうのがあったと思う」
「え……」

悠唏ってそんなこと考えるタイプなのかな。そういう打算的なことは考えずに行動しそうだけど。

「あいつなぁ…無意識なんだろうけど,他人にどう見られてるかを重視してんだと思うぞ。それが良いことか悪いことかは別として,どういう風に振る舞えば自分の都合のいい印象を与えられるか…そういうのが分かってると思う」
「そうかな…」
「お前がいるとそういうの気にしねえみたいだけどな!」

理流には世の中がどんな風に見えてるんだろう。あたしとは全然違うものを見てる気がする。きっとそれは,あたしと理流だけじゃなくて誰にでも言えることなんだろうけど……





「藍那が来るまでは,悠唏はそういう人間なんだと思って納得してたんだ。でも,あいつも素直になれる場所があって良かった」

ありがとうな,と理流がほんとに優しく笑うもんだから,なんだか悲しくなった。

悠唏にとってあたしはそんなに大きな存在なんだろうか…少なくとも,理流にはそう見えるくらいに。


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