クールな公爵様のゆゆしき恋情 外伝 ~騎士団長の純愛婚~
 私は溜息を吐いてから立ち上がり、部屋を改めて見回した。

 家具が何もおかれてないので広く感じるけれど、実際はアンテス城の私の寝室の半分にも満たなそうな空間だと思う。

 部屋にひとつしかない扉は、罪人を閉じ込める牢獄のような鉄製では無いけれど、とても頑丈そうだ。道具も無しに無理矢理こじ開ける事は不可能だろう。

 自力での脱出は不可能。

 私はそう判断して、比較的汚れの少なそうな場所を見つけ、そこに腰を下ろした。

 万が一誘拐に有った場合は、無闇に騒がないようにと教えられている。
 私が連れ去られた事はホリーからフレッド達に伝わっているはずだから、いつか助けは来るはずだ。

 本当はこんな所に座っていたくないけれど、助けが来た時に、体力がなくて動けないなんて事になったらまずい。

 大人しく座り、もう一度状況を確認しようと考えを巡らしていると、ヘルマンがヨロヨロと立ち上がり私に近づいて来た。

 私と違い、へルマンは手枷をされたままだから、動き辛そうだ。

 転びそうになりながら私の直ぐ隣にやって来たヘルマンは、何の断りもなく、その場に座り込んだ。

 通常なら、家族でも婚約者でもない異性にこんなに近付くのはマナー違反だ。

 でも、今は非常事態だから仕方無いか。

 少し不快では有ったけれど、それについては触れずにヘルマンに声をかけた。

「どうしたの?」
「い、いえなんだか心細くて」
「……それで私の隣に? 残念だけど私にあなたを守る事は出来ないわよ」

 と言うか普通は逆じゃないだろうか。

 まるでか弱い令嬢のような精神のヘルマンに、改めて呆れてしまう。
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