クールな公爵様のゆゆしき恋情 外伝 ~騎士団長の純愛婚~
「ベルツ家に戻るまでの応急手当です。治った訳ではないので、無闇に動き回らないでください」
「分かってるわ。それにしてもリュシオンは手当てに慣れているのね」
「我々騎士は怪我をすることが多いので自然と慣れます。ですが、グレーテの手当てをする日が来るとは思わなかった。こんな目に遭わせてしまうなんて……」

 リュシオンが眉間にシワを寄せて言う。その様子はとても苛立っているように見える。

「怒ってるの?」
「……この状況に怒りを覚えています。グレーテを連れ去られてしまったこと、怪我をさせてしまったこと……こんな事になるなんて」
「もしかしてさっき、サウル王子に対して怒ってたのは、私を攫ったからって言うのもある?」

 アンテスの騎士としてサウル王子の裏切りを怒っているのだけではなく、個人的な感情でも怒っているの?

 リュシオンは当然とばかりに頷いた。

「仮にも王族に手を出すわけには行きませんから耐えましたが、抑えるのに苦労をしました」

 思い出したのかリュシオンは顔をしかめる。


 彼は怒っているけれど、私は反対に嬉しくなった。だって、その気持は婚約者としての義務や責任からではないと感じるから。

「ありがとう。私の為に怒ってくれて。それに助けに来てくれて……まさかリュシオンが来てくれるとは思わなかったから、顔を見たとき夢かと思うくらい嬉しかった」

 そう告げると、リュシオンが怪訝な顔をした。

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