クールな公爵様のゆゆしき恋情 外伝 ~騎士団長の純愛婚~
償いと別れ
 緊張が解けたことと、中の人を気遣うように穏やかに走る馬車の揺れのせいなのか。
 気力体力ともにすっかり失っていた私は気が付けば眠ってしまっていたようだ。

 目を覚ましたのは、リュシオンに名前を呼ばれたから。

 夢から覚めて状況を把握した私に、泣き顔のホリーがしがみついてきた。

「グレーテ様! 良かったご無事で……」
「ホリー……大丈夫よ。心配かけてごめんね」

「すみません!……私、あの時グレーテ様を助ける事が出来なくて……私だけ隠れてて」

 ホリーが泣き声で言うのは、東屋で誘拐された事だろう。

「あの場でホリーが出てきても一緒に捕まっただけよ。ホリーが助けを呼んでくれたから私は助かったのよ」

 だから、もう気にしないで。

 ホリーはそれでも罪悪感から抜け出せないらしく何度も謝っていたけれど、リュシオンの指示を受けたフレッドに連れられて一足先にベルツ家の館の中に半ば強引に連れられて行った。

 私は医師の手当てを受けるまでは歩くのは禁止だそうで、リュシオンに横抱きにされて館に向かう。

 どうやら滞在していた客間に向かうようだ。

 リュシオンに身を任せていると、慌しい足音が聞こえて来た。

「グレーテ様!」

 そう叫びながら私達の前に跪いたのは、ベルツ家当主と、その側近達だった。その中には、リュシオンのお父様もいる。

 リュシオンは私を抱いたまま立ち止まった。

 ただ彼の表情は険しくて、とても苛立っているように見える。

「グレーテ様、この度のこと誠に申し訳御座いません」

 ベルツ家当主を先頭とした彼らは、床に額を着ける勢いで土下座をする。

 圧倒されるその光景だけれど、無理は無いかもしれない。
 ベルツ家は今存続の危機とも言える状況なのだから。

 必死なその様子を見ていると、同情の気持が湧いてくる。

 ヘルマンは騙されていたようなものだし、当主に至っては晴天の霹靂の事だろうから。

 だけど今回は他国が関係している事だから、私の口から軽々しく許すと言う事は出来ないし、そんな権限はない。

 どうしたものかと思っていると、リュシオンが口を開いた。

「そこをお退きください。グレーテ姫は直ぐに医師の手当てを受ける必要があります」

 それはとても厳しい声だった。

 ヘルマンにも気を遣い、丁寧な姿勢を崩さなかったリュシオンの態度とは思えないほどに。

 驚いているのは私だけでなく、ベルツ家当主も同様のようだった。
 だけど続いたリュシオンの言葉で、何か言いたそうに開きかけた口を閉ざしてしまった。
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