クールな公爵様のゆゆしき恋情 外伝 ~騎士団長の純愛婚~
「リュシオンに正しくないことをしろと言うの? ただあなたの都合の良いように動けというの?」
「ええ。だって彼は私に償うと、何でもすると誓ったのですから」

 あまりに自己中心的なその考え方に、衝撃を受ける。

 リュシオンが感じている負い目を利用して勝手なことばかり言い、彼の意思など関係なく服従を強要しようとするなんて。

 確かにリュシオンは、カサンドラに対して反論出来ないのかもしれない。
 今も身勝手なカサンドラの要求に黙ったままでいるくらいだ。

 でも……リュシオンがそれでよくても私は許せない。

 悲劇のヒロインになってなんの努力もせず、リュシオンにあらゆる責任を丸投げをするカサンドラの姿勢に強い苛立ちが込み上げた。

「カサンドラ。あなたの怪我の経緯をヘルマンから聞きました。どう考えてもリュシオンひとりのせいではないわ。あなたが辛い思いをしたのは確かだろうけれど、リュシオンに何もかも押し付けて生きていくのはおかしいし許されない。だから今後リュシオンに対して理不尽な要求をするのは辞めてもらうわ」

 今までになく威圧的な口調で告げると、カサンドラが驚いたように目を見開いた。

 私がここまではっきりと非難してくるとは、思っていなかったのかもしれない。

 リュシオンがどう感じているのか気になりながらも、私は更に追及をするべく口を開いた。

「あなたは歩けないのだと思っていたわ。初めて会ったときも不自由な身体で挨拶も出来ないと言っていたくらいだし。でも違っていたのね。いざとなればひとりで立ち歩くことが出来る。誰かに助けて貰う必要はない程にしっかりと」

 カサンドラの傷が癒えていることを、リュシオンは知っていたのだろうか。

 そもそも、いつから歩けるようになっていたのだろう。

 嘘を吐かれていたことへの非難の視線を送る私に、カサンドラは不快そうに顔をしかめて答えた。
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