クールな公爵様のゆゆしき恋情 外伝 ~騎士団長の純愛婚~

◇◇◇

 あれは今から十年以上前、湖の畔にあるおばあ様の屋敷に遊びに行った時の事だった。
 父方の祖母にあたるおばあ様は、お父様がアンテス辺境伯の地位を継いだ際城を出て、近くに別宅を構え暮らしていた。

 その屋敷の花壇は、沢山の色鮮やかな花が咲き乱れとても美しく、綺麗なものが大好きだった私は毎日でも遊びに行きたい程気にいっている場所だった。

 けれど私はまだ幼く、一人での外出は許されていなかったから、兄か姉が行く時に便乗させてもらっていた。

  兄は気まぐれでしかおばあさまを訪ねなかったから、必然的に姉に連れていって貰う事が多くなる。
 姉が出かけるときは、必ず護衛として騎士リュシオンが付き従っていた。

 リュシオンは見るからに強そうな兄よりもずっと強いという噂を聞いていた。
 けれど、兄みたいに口が悪くないし、顔も綺麗でスタイルもほっそりとしていたから、少しもそんな風に見えないなと当時の私は思っていた。

 でも姉と出かけた時に危ない目に遭った事は一度も無かったのは、リュシオンがしっかりと護衛して、私達に危険が近付かないようにしてくれていたから。彼は優秀な騎士なんだと後から知った。



 その日も私は姉に連れられてお婆様の屋敷を訪ね、満開の花畑で遊んでいた。

 真面目に花壇造りの手伝いをする姉を横目に、私は花達の間を駆けたり湖の畔を散歩したりと気ままに過ごす。

 そんな風にはしゃいでいる内に沢山汗をかいてしまったようで、喉が渇いた。

 一人で建物へ入り、家人に水を貰い一息ついていると途中、話声が聞こえて来た。

 それは庭が見渡せる日当たりの良い部屋の方からだった。

 おばあ様は最近具合良くないため、その部屋で休んでいる事が多いそうで、邪魔をしないようにと私は姉に言い聞かされていた。

 けれど、私は足を止めて声の方へ向かった。
 おばあ様は誰かとお話し中のようだから、私も中に入っていいんじゃないかと思ったのだ。
 
 居間に向かうとき、不意に悪戯心が生まれてきた。

 こっそり近付いて驚かせようと考えた。
 子供が一度はやりそうな単純ないたずら。

 だけど私は実行する事が出来なかった。
 部屋の扉を開こうとした私の耳に、

――私はラウラ姫を想っています――

 思いもしなかったリュシオンの声が聞こえて来たから。
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