クールな公爵様のゆゆしき恋情 外伝 ~騎士団長の純愛婚~
「バラークに不穏な動きがあります」
「……うそ」

 リュシオンが嘘を言う訳がない。そう分かっているのに思わず呟いてしまった。

 そうなってしまう程【バラーク】の名は私達にとって不安の象徴なのだ。


 バラークとはベルハイム王国の東側に位置する非友好国の名だ。

 好戦的な王が治める獰猛な国で、過去に周辺の小国を幾つか滅ぼしており、ベルハイム王国にも何度も攻めて来た事がある。
 私が生まれる少し前にも大きな戦いが有ったと聞く。

 アンテス領はバラークと国境を接しているから、一番初めに戦いになる。と言うよりもバラークのような敵国の侵攻に備える為に、アンテス辺境伯領が存在しているのだ。

 最近では小競り合いはありながらも、大きな問題は無く平和に過ごせていたのに、また戦いになってしまうのだろうか。

 そうなったら、リュシオンは真っ先に戦場に行ってしまう。

「……どうしよう」

 大きな不安が襲って来て動揺する私を、リュシオンが宥める様に言った。

「まだ何か起きると決まった訳では有りません。もしバラークがよからぬ事を企んでいたとしても大丈夫です。グレーテに危険が及ぶ事は有りません。その為に皆必死に訓練をしています。我々を信用して心穏やかに過ごしてください」

 その言葉に私はぎこちなく首を横に振った。

 私が心配しているのは自分の身の事じゃない。リュシオンの事だ。

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