クールな公爵様のゆゆしき恋情 外伝 ~騎士団長の純愛婚~
「ベルツに問題が有るわけじゃない。ただどこに行くにも予想外の危険に遭う可能性は有るだろ?」
「確かにそうですね。大切な妻をそんな危険な目には遭わせられませんね」
「別にグレーテを蔑ろにしている訳じゃないぞ。ただあいつは今大事な時期だから……」

 珍しく口ごもったお兄様の態度にピンと来て、私は身を乗り出した。

「もしかしてお義姉様は懐妊されたのですか?」
「……まだ育つか分からない。口外するなよ」

 私は勿論と頷いた。
 結婚して数年経つのにお兄様達にはまだ跡継ぎがいない。
 漸く出来た子だからお兄様もかなり慎重になっているのだろう。

「分かりました。そう言う事なら私が行くのが一番ですね」
「分かってくれたか」

 お兄様は嬉しそうに言う。

「はい。数日の滞在くらい大丈夫だと思います。しっかりと名代を務めて来ます」

 そう言うとお兄様は満足そうに頷く。
 でもリュシオンは私のベルツ行きを良く思っていないようで、浮かない様子でお兄様に言った。

「レオンハルト様、ベルツ行きの護衛は私にお任せください」
「リュシオンは駄目だろ? バラークに動きが有ったらどうするんだよ?」

 お兄様は眉間に深いシワを寄せて言う。
 私もそれは仕方無いと思う。リュシオンが一緒に居てくれたら心強いし嬉しいけれど、今はわがままを言える状況ではないからだ。

「……では道中だけでも付き添わせてください」
「お前がそこまで言うなんて珍しいな。何か気になるのか?……」

 お兄様は少し考え込んでから大きく頷いた。

「分かった。往路はリュシオンが護衛に付いて向こうの安全を確認してから帰って来い。その方が安心だ。俺も妹の身は心配だからな」

 今更の心配だとは思ったけれど、道中リュシオンが付いていてくれるのは心強い。
 安心してベルツへ行けそうだ。

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