クールな公爵様のゆゆしき恋情 外伝 ~騎士団長の純愛婚~
 その機会は直ぐに訪れた。

 お父様の計らいで、私とリュシオンは、アンテス城の中庭で会う事になったのだ。

 この中庭の一角は、何代か前の当主夫人の趣味で優美に整えられている。
 緑の芝が敷き詰められ、その中央に池がある。池の中央には白の優美な東屋が設えてあり、質実剛健のアンテス城内で、数少ない私のお気に入りの空間だ。

 その東屋に備え付けられている長椅子に私は腰掛け、少し離れた場所に立つリュシオンに声をかけた。

「リュシオンも座って。こんなに離れていては話がし辛いもの」

 私は自分が座っている長椅子の対面の椅子に視線を向けて言う。

「失礼致します」

 リュシオンはそう一言告げてから、騎士らしい無駄の無い動きで私の勧めた椅子に浅く腰かけた。

 一連の動作を眺めていた私だけれど、次に何て声をかければ良いのか分からず、困ってしまった。

 言いたい事、聞きたい事はいろいろと有るのに、切り出し方が分からない。と言うのもリュシオンの態度が想像と違っているからだ。

 リュシオンは、婚約の話が出ているとは思えない程に淡々としていて、未来の妻に会いに来たと言うより、主君の娘に呼び出されたから来た。といった雰囲気だ。

 私が内心感じている、気恥ずかしさや照れ、期待や不安といったような特別な感情の動きが全くないように見える。

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