クールな公爵様のゆゆしき恋情 外伝 ~騎士団長の純愛婚~
 私が見た限りでは、リュシオンは一言もお父様と話していない。

「特に話す事も有りませんから」
「でも……」

 このまま帰っていいのだろうか。
 そう思ったのだけれど、リュシオンからは私に家族の事を踏み込んで欲しくないような雰囲気を感じる。

 過去の事も有るから、私からはそれ以上何も言えなくなり、私は諦めて口を閉ざした。


「ねえリュシオン、部屋の外を散歩していみたいわ」

 なんとなく気まずくなってしまった空気を変えたくて言うと、リュシオンは快く私を連れ出してくれた。勿論ホリーも一緒だ。


 ベルツ家の館はどことなくアンテス城に似ている。
 規模は全く違うけれど、限りなく装飾を抑えた質実剛健なところに通じるものがある。主家であるアンテス家を倣っているのだろうか。

 どちらにしても、あまり私の好みではない。

 これといって熱心に見る所もなく、あっと言う間に館内は見終わってしまったので、中庭に出る事にした。

 中庭は建物の規模からすると広い。
 貴族が好むような花壇は無いけれど、多くの樹木が植えられていて、心地よい風が流れている。

 少し歩くと、四方の柱に屋根が付いただけの簡単な作りの東屋が見えたので、休憩する事にした。
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