クールな公爵様のゆゆしき恋情 外伝 ~騎士団長の純愛婚~
「だって、あんなあからさまな態度を取られるとは思わなかったから」
過去の事は有るけれど、今のリュシオンは王都でも高名な騎士。しかも私の婚約者でもある。心の内の蟠りや恨みを、あんな風に直接的に現して来るとは思っていなかったのだ。
「カサンドラ様が私を憎く思うのは当然のことです。あれくらい当然の反応だと思います」
「当然なんかじゃないわ。カサンドラ様はベルツ家の令嬢なのよ。立場と礼儀ってものが有るでしょう? リュシオンに対して失礼過ぎるわ」
「いいえ、カサンドラ様は何も悪く有りません。グレーテ、カサンドラ様の事をこれ以上悪く思わないで下さい。アンテス家の令嬢が不快に思っている事を周囲に知られれば、カサンドラ様の立場が悪くなってしまいます」
リュシオンのその言葉に、私はショックを受けて黙りこんだ。あんな憎しみの目を向けた人を、リュシオンが庇うのが信じられなかった。
「……リュシオンはカサンドラ様をどう思っているの?」
「贖罪の気持ちでいっぱいです。私のせいで人生を変えてしまったのですから」
「それなら……もしカサンドラ様と私が喧嘩をしたらリュシオンはどうするの?」
口から零れた言葉に、リュシオンが驚き目を見開く。私自身も動揺していた。
私は何を言っているのだろう。どう考えたってリュシオンを困らせる質問だと言うのに。
どうしてこんな事を言ってしまったのだろう。
「あ、あのリュシオン、今のは……」
「グレーテが理不尽に立場が弱い者を責めるとは思いません。もしカサンドラ様と諍いになるとしたら、カサンドラ様に原因が有るのでしょう」
「リュシオン……」
私の愚かな発言に驚きながらも呆れる事なく、穏やかに返してくれた事にほっとした。
それに私を信頼してくれている事が伺えて嬉しかった。だけど、続いた言葉に私は顔を強張らせた。
「カサンドラ様の罪は代わりに私が償います」