クールな公爵様のゆゆしき恋情 外伝 ~騎士団長の純愛婚~
 それは予想以上に衝撃的な発言だった。

「じ、冗談言わないで下さい」

 声を荒げそうになるのを抑えるので精一杯の、余裕の無い反応しか出来ない。

 でもまさか、婚約解消を頼まれるなんて思わなかった。

 考え付かない程、カサンドラの言ったことは常識から外れている。

 この事を私がお父様に伝えたら、カサンドラだけの問題ではなくベルツ家としての責任問題になってしまう。良い大人のカサンドラがそれを分からないはずがないのに。

「私は本気です。グレーテ様から婚約を断って頂きたいのです。グレーテ様が言えば辺境伯様も婚約破棄を認めてくれるでしょう」

 カサンドラの、まるで悪気のない物言いに唖然とした。
 私が怒るなんて、少しも考えていない様子だ。

「確かに父に言われた事で纏まった婚約ですが、今となっては私自身が望んでいる事なのです。カサンドラ様の怪我については心から気の毒に思います。ですが私はリュシオンとの婚約を解消するつもりは有りません」

 そう言うと、カサンドラは動揺も顕に目を見開いた。
 私がリュシオンを望んでいるとは、夢にも思ってもいなかったみたいだ。

「まさか。リュシオンはそんな事……気持ちが有るなんて事言っていませんでした」

 カサンドラの言葉が胸を突く。だけど傷付いた所を見せないよう、私は出来るだけ毅然と見えるようにゆっくりと立ち上がった。

「カサンドラ様。少し頭を冷やした方がよろしいようですわ。そしてご自分の発言を省みるべきです」
「私は……」
「今の話はここだけの事にしておきます。ですが二度目は有りません」

 何か言いたそうなカサンドラから視線を外し身を翻す。
 この態度で今の話が不快で有ったと伝わったと思う。

 普通ならば、二度と私の前でリュシオンとの事を口にしないはず。

 だけど、カサンドラとの会話で受けたダメージはなかなか癒えず、私の気分はどこまでも沈んでいった。
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